田舎の学校だからこそ取り組むべきICT教育
ずいぶん前からICT&AL(アクティブラーニング)教育とはいわれていましたが、新学習指導要領の発表からか、にわかに各学校でのICT&ALの取り組みが話題になってきている感じです。
今年度より中学校全校生、高校1年生一人一人の個人端末としてChromebookを導入しました。
※以下の内容は紙幅の都合で情報誌JAMに掲載できなかったICT担当の奥田教諭のインタビューをまとめたものです。
私が感じる教育業界の変化
高大接続改革が進む中、社会の変化のスピードに遅れていた教育分野も、最近は考え方に変化が見られます。 「先生が教科書の内容をどう教えるか」以上に「生徒が授業を通してどう学ぶのか」といったように、生徒の「知りたい」「学びたい」に主眼を置いているんです。でも、今までの教員1人対生徒全員のスタイルだと、すべての生徒の『知りたい』に先生が応えることができない。 これを解決する手だての一つとしてICT教育があり、本校も挑戦を始めました。
まずは、私たち教員の意識改革から
みなさんによく言われる近大豊岡のイメージは「勉強ばかりの学校」。確かに、大学進学を目指して学ぶ生徒たちのために、私も予備校の講師のように「チョーク&トーク」で知識伝達型の授業をしていました。 学びの本質が、「主体的・対話的で深い学び」と再定義される中、全国からはICT教育の事例が報告されるようになってきました。そこで本校は2017年「ACTルーム」と「図書室」(ラーニングコモンズ:情報通信環境があり、グループ学習用設備のある空間)を整備しました。
教室の3つの壁面に全面ホワイトボードを配備した真っ白なACT ルームには、プロジェクターや台形テーブルを設置して「最先端の学びの空間」を実現しました。そうすると、授業は生徒同士がお互いの「顔」を見ることができ、「対話」が生まれます。もちろん、「おしゃべり」が多くなっただけじゃないのかという声もありましたが(笑)。しかし、ACT ルームで授業をすると教員の質問の仕方や対話の引き出し方が変わってきました。主体的・対話的で深い学びの実現へ向けて、教員の意識が変わってきたんです。
教員と生徒間の情報共有ができないか
授業の改革と同時に、教員間の業務はクラウドを利用した情報共有が進んできました。教員と生徒たちとの間でも同じようなシステムができないかと、色々なプラットフォームの検討をした結果、2018 年からGoogle が教育機関向けに提供しているG Suite for Education の利用を本格的に始めました。すると、生徒たちは学校共有のPC やタブレット端末を利用し、クラウドを使ったデータ共有や共同編集などによって生徒の ICT スキルは確実にアップしていくんです。例えば、Classroom という機能を使って、クラス情報の共有を実現しています。クラスの掲示板がインターネット上にあるといったイメージです。(もちろんクラスの生徒しか見ることはできません。) この機能をクラス内での情報共有だけでなく、部活動のコミュニケーションなどにも利用しています。LINE などの SNS とは違った情報プラットフォームの有用性を体感しつつあると思っています。
生徒個人端末chromebook導入
学校用の端末を使ったG Suite for Education の利用が進むにつれ、「個人端末があれば…」といった声が聞こえるようになってきました。 高校の学習指導要領改訂が迫ってくる中、文部科学省から「普通教室のICT環境整備」が全国の学校に求められています。そこで、本校はICTの環境整備の『Stage4』である『 1人1台の個人端末の所持』を目標にICT環境の整備を加速させました。
「今のタイミングで変わらなければ、この地域の教育は止まったままになってしまうのでは。」という教育の地域間格差が心配される中、「田舎だからこそインターネットを介して世界とつながることで、地域の教育格差をなくすことができる。」と思い、個人端末の導入に踏み切りました。
そして、2019年10月「生徒個人端末Chromebook導入」
中高生にとって持ち運びがしやすく、PCと同じような操作で使え、クラウドを利用したデータ管理や仲間との共同編集をするために、最適な端末を考え、Chromebookを選定しました。
ICT 環境の整備による生徒の変化
2018年に G-suite for educationを導入してから1年半。私が感じることは、「教員よりも生徒の方がシステムもデジタル機器も臆することなく使うこと」です。国語科のある授業では、教員が「form」というアンケート機能を使って生徒に質問しています。口頭で質問すると、「間違えたら恥ずかしい」という意識が先行して、発表や質問が出にくいこともあります。ICTを使って全員に質問すると、自信を持って回答することもできるようになります。また回答も自動集計されるので、授業は「一人ひとりに質問する」から「生徒の回答をみんなで分析する」ことにスタイルが変わっています。
数学科の授業では、「geogebra」が使われています。関数の最大・最小問題などのグラフが動く問題では、グラフをイメージすることに役立っています。驚いたことは、グラフの動きを確認すると、異なる問題での発想のしやすさが向上したことです。 授業だけでなく学校生活全般で生徒たちにとって当たり前になったのは、クラウドを利用した共同作業です。 HRや総合探究学習では、生徒たちが「ドキュメント(文書編集)」、「スプレッドシート(表計算)」、「スライド(プレゼンテーション資料作成)」で共同編集する姿をよく見かけます。 ・「1ページ目は私が作るから、2ページ目お願い。」といった作業分担。 ・自分の端末と相手の顔を見て、「文を作ってみたけど、どう思う?」と言いながらの共同編集。
今までは、情報共有するために自分の考えを紙に印刷して見せ合っていた手間を、今は共同作業をするので、一歩目のレベルが高く、デジタルなので修正もしやすい。驚いたことは、はじめに少し教えただけなのに、数カ月過ぎれば、生徒たちの方が使いこなして、スキルも向上しています。 このように共同作業が増えたことにより、他者の考えや価値観に触れる機会も増え、自分の考えとすり合わせてより良いものを創り上げていく「協働的思考力」が向上しています。
これからの教育、そして育てたい力
最近、情報の授業で感じることは、Google の検索ワードに何を入力していいかわからない生徒がいます。必要な情報が欲しいのに、何と検索していいのかわからずたどり着けないどころか、間違った情報をつかんでしまっている。Chromebookが手元にあるので、いつでもどこでも情報を手に入れることができるからこそ、情報を検索する力と情報を整理・分析する力が必要だと感じています。ウェブ上にある多くの情報から、自分の考えの根拠となる情報なのかどうかを考えなければいけない。
また、いつでも情報を検索できるので、情報の見落としが増えてきているようにも感じています。「相手は見てくれるだろう」という感覚のもと、多くの情報がやり取りされることで情報が埋もれていく。教員でも「紙で配られたときの方がよく見ていた。」というほど、情報の流し読みが増えることによる情報の見落としが起こっています。
このような状況を見ると、情報が増えすぎたことにより情報の価値が低下しているのではと思うこともあります。だからこそ、情報発信者は受け取る側の立場に立って、情報を伝えるための配慮が必要だと感じています。情報伝達はコミュニケーションを補完するためだけのものですから。
これからの社会はさらに急速に変化し、IotやAI、5Gなど新しい技術が生活を支えてくれる社会になっていきます。そんな社会の中で活躍していく子どもたちは、知識や技術を融合させて新しいものや考え方を生み出す創造力が必要だと言われています。創造するために必要なのは「想像力」(笑)。
私はイメージできる以上のことは実現できないと思っています。だからこそ、子どもたちにはいろんな世界を見せてあげたい。自分とは異なる考え方や新しい価値観に触れさせてあげたい。
そのために私たち教員は、既存の知識を伝達するだけではなく、知識や技術、情報を組み合わせていくようなファシリテーターのような役割があると思います。だからこそ、教員は常にアップデートしておかないといけない。そんな思いで毎日過ごしています。